東京地方裁判所 昭和52年(ワ)7731号 判決
一 原告が本件特許権を有すること、本件発明の特許出願の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右争いのない特許請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報。別添特許公報と同一。)の記載を総合すれば、本件発明の構成要件は次のとおりであると認められる。
A 農芸舎の天井下方に保温フイルムを移動側端を対向させて重合するように並列して設けること、
B その移動側端を開閉用綱に止着すること、
C 保温フイルムの他側端を農芸舎の内部に支持すること、
D 開閉用綱を農芸舎の天井両側に固定する端滑車及び天井のほぼ中央に固定する中滑車に掛張して保温フイルムの横方向に移動可能とすること、
E 保温フイルムを開閉操作する引綱を端滑車を介して開閉用綱に設けること、
F 引綱を設けた案内綱を農芸舎の隈部に設けた案内滑車に掛張すること、
G 農芸舎の保温装置であること。
二 被告が被告製品(ただし、別紙(〔編註〕省略)物件目録記載説明及び図面中「引綱」の表示部分を除く。)を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。なお、被告製品は、その説明が被告指摘の部分において原告主張のとおり表現されるべきか被告主張のとおり表現されるべきであるかは、しばらく措く。
三 しかして、被告製品を示すものであることに争いがない別紙物件目録記載の図面(ただし、「引綱」と表示されている部分を除く。)に成立に争いがない乙第五号証及び本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、次のとおり認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
1 原告が被告製品につき「引綱(18)、(19)」として主張する部分は被告製品における「開閉用綱(10)」の一部であつて、本件発明の構成要件に対応されるべき被告製品における引綱なる構造は存在しないこと。
2 しかして、本件発明においては保温フイルムを開閉するために引綱を操作するところ、そのために、引綱を農芸舎の隈部に設けた案内滑車に掛張した案内綱に設け、案内綱を時計方向及び反時計方向に回動させて引綱を操作するものであるのに対し、被告製品は一本かつ有端の開閉用綱の両端部を端滑車から抽き出し、その各端部をドラムにそれぞれ巻回方向を逆にして巻回し、右ドラムを一本の駆動軸に固定して正逆回転することにより直接開閉用綱を駆動するものである点で、少なくとも本件発明と被告製品との構成上の一つの差異が存在すること。
四 ところで原告は、右のような差異すなわち本件発明における案内綱を被告製品における駆動軸及びドラムに換えることは、いわゆる均等に属する旨主張する。
しかしながら、本件発明における案内綱を被告製品における駆動軸に換えることが、本件発明の出願当時本件技術分野において可能な一般的技術手段であること及びそのように換えることにつき容易に予測し得たと断ずべき証拠はない。そして、さきに認定したように、本件発明は、「保温フイルムを開閉操作する引綱を端滑車を介して開閉用綱に設け、引綱を設けた案内綱を農芸舎の隈部に設けた案内滑車に掛張すること」を一つの構成要件とするところ、前顕甲第二号証によれば、本件発明の願書に添附した明細書の発明の詳細な説明の欄には、「この発明はこのように構成されているので、開閉用綱10に連結固定する引綱18又は引綱19(引綱10とあるは誤記と認める。)を案内綱32を回動して引くのみで容易に農芸舎1の天井全面にわたり保温フイルムの開閉をすることができる。」と記載されていることが認められる。してみれば、右構成要件すなわち前掲構成要件E、Fは、容易に農芸舎の天井全面にわたり保温フイルムの開閉をすることができることの、欠くべからざる構成要件であると解することができる反面、右明細書を仔細に検討するも右の構成要件以外に、容易に保温フイルムを開閉することができるための構成についての記載はなく、それを示唆する記載もない。
のみならず、前顕乙第五号証によれば、被告が主張するように、被告製品では、駆動軸及びドラムによる開閉用綱の巻取、巻戻という構造をとつたため、対抗して開閉するカーテンの移動幅が大きくても、開閉用綱(10)を直接ドラム(20)で巻取るから、その回転数を調節することによつて、任意の移動幅に適用することが可能であり、また、一本の駆動軸(32)の回転による巻取・巻戻によるため、カーテン全体の重量や、開閉用綱と滑車との摩擦負荷が集中して一か所に作用することがないので、駆動軸(32)が円滑に回転するという特段の作用効果を奏し、この点において、本件発明とはその奏する作用効果上顕著な差異があることが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。
してみれば、結局、原告の、前記の主張は採用することができない。
五 以上のとおり、被告製品は少なくとも本件発明の構成要件Fを充足しないこととなり、本件発明の技術的範囲に属さないというべきである。
よつて、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。